三重項

基礎化学・基礎物理
光物性・光化学
量子化学における多重度は、全スピン角運動量をSとしたとき、2S+1 で定義される。 多重度は、スピン角運動量の向きのみが異なる複数の縮退した量子状態(波動関数)を区別するために使われている。多重度は不対電子スピンの量の定量化で、フントの規則の結果である。全スピン角運動量Sは、単純には不対電子の数を2で割ったものである。全ての電子が対になっている場合は S=0 で、多重度は1である。この場合は一重項(singlet)と呼ばれる。分子が1個の不対電子を有している場合は S=1/2 で、多重度は 2S+1=2(二重項、doublet)である。不対電子が2個の場合は同様に三重項(triplet)と呼ばれる。三重項状態は系の電子が偶数個で不対電子を2個もつ場合にのみ生じる。つまり、系の電子をスピンの方向が互いに反平行であるような2個の電子の組に分けるとき、最後に平行スピンをもつ2個の電子が残る場合である。この平行スピンをもつ電子は、パウリの原理によって同じ空間軌道に入ることはできず、異なった空間軌道に帰属する。偶数の電子を有する分子の基底状態は一般に一重項状態であるが、酸素分子のように、縮退した最高被占軌道(HOMO)に2個の電子が帰属するときは、フントの規則に従い、電子は平行スピンをもって異なる軌道に帰属することになり、基底状態が三重項状態になるものもある。

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