有機固体の電子構造
有機固体の電子構造
材料
有機半導体材料
有機固体は一般にファンデルワールス相互作用により分子が凝集した分子性固体である。このため、価電子帯の波動関数は分子内にのみ広がっている。分子と分子の間にはポテンシャルの壁があるため、電子の移動は大きな制限を受ける。分子の軌道のうち、最もエネルギーの高い占有軌道をHOMO、最もエネルギーの低い空軌道をLUMOという。この二つの軌道はフロンティア軌道と呼ばれ、電気特性をはじめ、さまざまな物性を左右する鍵となる軌道である。有機固体のHOMOと真空準位のエネルギー差は、有機固体から電子を1個取り出すのに必要な最低のエネルギーに対応し、イオン化エネルギー(イオン化ポテンシャル)と呼ばれる。一方、LUMOと真空準位のエネルギー差は、有機固体に電子を1個与えたときに放出されるエネルギー(あるいは負イオンのイオン化エネルギー)に対応し、電子親和力と呼ばれる。また、HOMOとLUMOのエネルギー差がバンドギャップである。ただし、バンドギャップには、光学バンドギャップとトランスファーバンドギャップがあり、両者の値は異なる。前者は、吸収スペクトルの吸収端波長、つまり、基底状態と励起状態のエネルギー差となる。一方、後者は、基底状態と、自由なホール(カチオンラジカル)と電子(アニオンラジカル)に分離した状態とのエネルギー差であり、逆光電子分光などで測定される。通常、前者の値を用いることが多いが、その場合は、励起子の結合エネルギーの分だけバンドギャップを小さく評価していることになる。